リップル社(Ripple)と米国証券取引委員会(SEC)の訴訟について、これまでの経緯と和解までを時系列でまとめます。
リップル(Ripple Labs)と米国証券取引委員会(SEC)の訴訟は、2020年12月に始まり、2025年3月に和解という形で終結しました。この訴訟は、SECがリップルおよびその幹部(ブラッド・ガーリングハウスCEOとクリス・ラーセン共同創業者)がXRPトークンの販売を通じて13億ドル以上の未登録証券を提供したとして提訴したもので、暗号資産業界全体に大きな影響を与える注目すべきケースでした。以下に経過をまとめ、今後の展望を論じます。
リップルとSEC訴訟の争点
リップル(Ripple)と米国証券取引委員会(SEC)の訴訟の争点をわかりやすくまとめます。
一言にするなら、「リップル社が販売したXRP(暗号資産)が証券にあたるのかどうか」となります。
もう少し具体的には・・・
〇SEC側の主張
「リップル社はXRPを未登録の証券(投資契約)として販売した。だから証券法に違反している」という立場。
→ SECは、リップル社がXRPを売ることで資金を調達し、購入者はリップル社の事業成功による利益を期待していた。
だから投資契約(=証券)に該当すると主張。
〇リップル側の主張:
「XRPは証券ではなく、暗号資産(デジタル資産)だ。ビットコインやイーサリアムと同じようなもので、証券取引ではない」と反論。
→ リップル社は「XRPを買った人は、リップル社の経営に参加したり、配当を受け取ったりする権利を得たわけではない」と主張。
背景として重要な点
SECは以前、ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)について「証券ではない」との立場を示してきました。
リップル社は「なぜXRPだけが証券扱いされるのか」という不公平感も訴えた。
リップル社とSECの訴訟経緯
2020年12月22日 – SECによる提訴
SECは、リップルが2013年からXRPを未登録の証券として販売し、投資家保護のための開示義務を怠ったと主張。具体的には、XRPの機関投資家向け販売や幹部の個人売却が証券法(1933年証券法第5条)に違反して、13億8000万ドルを調達したするとされました。リップル側は、XRPは証券ではなくデジタル通貨であり、SECの規制は不明確であると反論。
(当時のプレスリリース
2023年7月13日 – 部分的な判決
ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所のアナリサ・トーレス判事は、リップル社のXRP販売に関し、以下のように判断しました。
・機関投資家向け販売:未登録証券の販売に該当
・プログラム的販売(個人投資家向け販売):証券には該当しない
この判決を受け、リップル社は部分的な勝訴と見なされました。
XRPが取引所で自由に取引可能であることが確認され、暗号資産業界にとって重要な前例となりました。(XRP価格は一時急騰(約30%上昇)
(SEC対Ripple Labsの画期的な判決後の展開(英語)
2024年8月7日 – 罰金判決
裁判所は、リップル社に対し、1億2500万ドル(約183億円)の罰金を科し、将来の証券法違反を禁止する差し止め命令を発行。
SECが求めた約20億ドルの罰金に比べ大幅に減額されました。
リップル側はこれを「勝利」と評価。罰金は機関投資家向け販売(約7億2800万ドル)に関する違反に基づくもので、XRPの市場価値と取引量は判決後に増加しました。
2024年10月2日 – SECの控訴
SECは、2023年7月の判決に不服として、正式に控訴を提起しました。
リップルもクロス控訴を提起し、投資契約の定義や罰金の妥当性を争いました。
しかし、トランプ政権の再選(2025年1月)後、SECの新議長ポール・アトキンス(暗号資産に友好的とされる)の下で規制姿勢が軟化。
このころより、SECは控訴の取り下げを検討し始め、和解交渉が加速しました。
2025年1月30日 – SECウェブサイトからの訴訟情報削除
SECの公式ウェブサイトから、リップル社との訴訟に関する情報が削除されました。
2025年1月20日 – SEC委員長の辞任
ゲイリー・ゲンスラーSEC委員長が辞任し、トランプ新政権下での暗号資産規制の変化が期待されています。
これらの動きにより、リップル社とSECの訴訟は新たな局面へ
2025年3月、和解成立、終結へ
リップルは1億2500万ドルの罰金のうち5000万ドルを支払うことで合意。残りはエスクローから返還。
SECはリップルに対する差し止め命令の解除を裁判所に要請。
– 両者は控訴とクロス控訴を取り下げ、訴訟は完全終結。
– リップルは違法行為を認めず、XRPが証券でないことが再確認された。
この結果は、SECの「執行による規制」アプローチの後退と、暗号資産業界への規制緩和の兆しとして受け止められました。[
リップル社、SECと和解:5000万ドルを支払い、訴訟は終結間近
リップルとSECの和解がほぼ確定(*)
米証券取引委員会(SEC)とリップル社は、長年続いた法的争いについて和解合意に達し、8日にニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に共同申立書を提出した。この申立書によると、両当事者はリップルに対する差し止め命令の終了と、1億2,500万ドルのエスクロー民事制裁金の解除を求めており、合意に基づきリップルはSECに5,000万ドルを支払い、残りの資金はリップルに返還される。
*最終的な和解には仮想通貨業界に友好的とされるポール・アトキンス新委員長を含むSEC委員会の内部承認が必要となる。
今後の展望
リップルとXRPの将来、および暗号資産業界全体への影響について、以下のように展望できます。
1. リップルの事業拡大
米国での事業再活性化
訴訟の不確実性が解消されたことで、リップルは米国市場での事業拡大を加速させる可能性が高いとされます。
ガーリングハウスCEOは、訴訟により米国でのビジネスチャンスが制限されていたと述べており、今後は新たなパートナーシップや機関投資家の採用が期待されます。
グローバル展開
リップルは既にアジア(特に日本)や中東での事業を強化しており、訴訟終結により欧米以外の市場での信頼性も向上。On-Demand Liquidity(ODL)サービスや新ステーブルコインRLUSDの展開が加速する可能性があります。
機関投資家の信頼回復
機関投資家向け販売に関する規制リスクが軽減されたことで、銀行やフィンテック企業との提携が進む可能性があります。
例として、Hidden Roadの12億5000万ドルでの買収(XRPLスケーリング目的)や、CoinbaseによるXRP先物上場計画が挙げられます。
2. XRPの価格と市場動向
短期的な価格上昇
和解の発表後、XRP価格は10%上昇(2.29ドルから2.51ドル、2025年3月時点)した。
しかし、過去の例(2023年7月判決後の30%急騰)に比べ、市場の反応は抑制的だった。
投資家は規制の明確化やマクロ経済要因(例:米国の金利政策、トランプ関税の影響など)を注視しており、短期的な上昇に留まったと思われる。
長期的な成長可能性
一部のアナリストは、XRPが2017年の強気相場を再現し、8ドルや27ドルまで上昇する可能性を指摘。
XRPスポットETF(例:フランクリン・テンプルトンの提案)の承認や、ビットコインETFのような機関投資家の流入が実現すれば、価格は大幅に上昇する可能性があります。XRPのETFの動向は要注目で、今夏から秋にかけて動きが具体化される公算です。
リスク要因
マクロ経済の不確実性(例:トランプ関税政策や景気後退リスク)や、競合する暗号資産(例:ステーブルコインやCBDC)の台頭がXRPの成長を抑制する可能性があります。ただし、これらの動きは、XRPの価格上昇の動きにつながる可能性も秘めている。( 貿易摩擦の高まりとタカ派的なFRBの姿勢により、XRPは2月の安値1.7938ドルに向けて圧力を受ける可能性がある一方、貿易摩擦の緩和とハト派的なFRBの姿勢により、2.50ドルに向けて回復が進む可能性がある。)
3. 暗号資産業界への影響
規制の明確化
リップルとSECの訴訟は、暗号資産の証券性に関する重要な前例を確立したと言われる。
プログラム的販売(≒個人向け販売)が証券でないとの判決は、取引所でのトークン取引の合法性を裏付け、CoinbaseやKrakenなどのプラットフォームに有利に働きます。SECの訴訟取り下げ(例:Coinbase、Kraken、Gemini)も、業界全体の規制緩和を示唆しています。
(ワシントンで暗号通貨の執行を緩和し、デジタル資産の革新を支援する傾向が高まっていることを反映)
新SEC議長の影響
ポール・アトキンス議長の下、SECは暗号資産タスクフォースを設立し、明確な規制枠組みの構築を目指しています。この動きは、「執行による規制」からルールベースの規制への移行を意味し、業界のイノベーションを促進する可能性があります。
グローバルな影響
米国の規制緩和は、他の地域(例:EU、日本)の暗号資産政策に波及する可能性があります。リップルの勝利は、暗号資産が伝統的金融システムと共存可能な資産クラスであることを国際的に示す契機となり、グローバルな採用を後押しすると考えられます。
4. 課題と不確実性
規制の未解決問題訴訟は終結したが、暗号資産全体の規制枠組みは依然不明確。議会による包括的な法律制定がなければ、将来的な法的紛争のリスクは残るとの見方もある。
競争環境
リップルは、ステーブルコイン(例:USDT、USDC)や中央銀行デジタル通貨(CBDC)との競争に直面そている。
XRPのクロスボーダー送金における優位性を維持するには、技術革新とパートナーシップの強化が必要です。
投資家の信頼
訴訟中の不確実性が、XRP保有者に15億ドルの損失をもたらしたとされ、信頼回復には時間がかかるとの見方もある。(SECの他の仮想通貨企業やプロジェクトに対する行動は、全体として桁違いの損害を与えた)
今後の展望めとめ
リップルとSECの訴訟終結は、暗号資産業界にとって歴史的な転換点です。5000万ドルの罰金支払いと差し止め命令の解除により、リップルは規制の不確実性から解放され、米国およびグローバル市場での事業拡大に注力できます。XRPは短期的な価格変動を経つつ、ETF承認や機関投資家の参入により長期的な成長が期待されます。業界全体では、SECの規制緩和と新議長の下でのルール作りにより、イノベーションと投資が促進されるでしょう。ただし、競争環境やマクロ経済の不確実性は引き続き注視が必要です。
リップルの勝利は、暗号資産が規制当局と対立するだけでなく、共存しうることを示しました。今後、業界が一丸となって明確な規制を求め、技術革新を推進することが、米国を「暗号資産の首都」にする鍵となるでしょう。